姫乃さんの見たがっていた、漢委奴国王印展は想像以上に人気だ。なにしろ本物の金印が展示されるとだけあって、話題性は抜群。
金印だけじゃなくたくさんの過去の遺産が展示されているけれど、やはり目玉の金印のブースには人が途切れることなく張り付いており、姫乃さんはその流れに乗れないでいた。
そういうところ、遠慮がちなんだよな。
行きたいけど人が来るから譲ってしまう、を繰り返す。結果、あまり前に進んでいない。もう一歩、図々しくなるだけでいいというのに、どんくさいというかなんというか、それが姫乃さんの優しさなのかもしれないけれど。
人の流れに沿って姫乃さんの肩をぐっと押す。その勢いで、ついに姫乃さんがショーケースの前に行くことができた。
「あ、ありがと」
振り向いた姫乃さんが近い。思った以上に。当たり前か、こんなにも混んでいるのだから。律儀にお礼を言う姫乃さんからまたふんわり甘い香りがした。思わず酔いしれそうになる気持ちを、無理やり金印に持っていく。
「すごい、教科書でしか見たことないやつ」
「うん。田んぼの中から出てきたんだよ。私なら気付かない。昔のものが残ってて、今この目で見られるってすごいよね」
「卑弥呼と関係あるんだっけ?」
「そう言われたりもするけど、わからないみたい。でもロマンがあっていいよね」
コソコソと喋ると、なんだか二人だけの秘密みたいでドキドキする。
話してる内容は秘密も何もない、金印のことなのに。